バラと藤とかすみ草

こじらせるだけこじらせたヲタク女がただ気まぐれに書きなぐるだけ。だいたいR18です。ご連絡はTwitter:@sawa_camelliaへ。

アメフリバナを君にⅠ

たしかにそれは,私の住んでいる田舎よりもきらびやかな,都会の夜景だった。

 

彼と出会ったのはちょっとしたイベントで,特に何があったわけでもなかった。
たまたま同じテーブルでご飯を食べて,
「どう,美味しい?」
「うん,美味い」
「よかったね」
という会話をしただけ。
最後にご挨拶用の名刺を渡して。

 

まさかそれだけで5歳以上も下の子に一目惚れされるなんて,誰が想像できるだろう。


「好き」
「大好き」
「愛してる」
「結婚したい」
「付き合って」

ただひたすらに,盲目的にに注がれる愛情。
愛をささやく言葉のはずなのに。
その言葉と裏腹に,彼から与えられる言葉すべてが,私を蝕み始める。

「本当に好き。こんなに好きって言ってる。愛してる。結婚して」

私はその言葉に応えることはできない。
理由はただひとつ,私に交際相手がいるから。
そして私が交際相手をとても愛しているから。
もちろん,交際相手も私をこの上なく愛してくれているから。

 

私は何度も,彼にその言葉に応えることができないことを伝えた。
もちろん,今注ぐことのできる精一杯の愛情も。

「私があなたにできるのは,"お姉ちゃん"でいることだけ」

電話口から「お姉ちゃん…」と小さくつぶやく声が聞こえる。
「お姉ちゃんって,呼んでいいの」
「いいよ」
「ずっと,お姉ちゃんって呼びたかった」

「どうして」
つぶやくことすらできなかった。

 

「ずっとお姉ちゃんと呼びたかった」
その理由を探し求めるうち,私は,彼の心にある,どうしようもなく大きな寂しさに気づいてしまった。

なんてこともない毎日の会話の端々に,寂しさが満ちている。

寂しい。
俺を愛して。
愛情で埋め尽くして。

この寂しさを埋めるために,彼は私に至上の愛を求めているのだ。

気づいたときには,もう遅かった。
気づかなければよかったのだ。
もう私は逃げられない。

「もうやめて」
「君は籠の中の鳥。でも大丈夫,俺が外に出してあげる。お姉ちゃん」

なんて愚かなことを…。

 

そんなときだった。
きれいな夜景の写真が送られてきたのは。

「ベランダで夜景を見ながら,タバコ吸うのが好き」
嘘だというのは見抜いていた。

別に彼が好きなのはタバコなんかじゃない。
夜景でもない。
もちろん,私でもない。

「カッコつけたい」
おそらく理由はそれだけだ。

ああ,それだけじゃない。

私の愛情が得られない寂しさを,彼はタバコで埋めている。
埋まるはずがないその寂しさを。

 

そして私は,その嘘を見抜いた上で,「きれいな夜景ね」と電話口の彼へ告げたのだった。