バラと藤とかすみ草

こじらせるだけこじらせたヲタク女がただ気まぐれに書きなぐるだけ。だいたいR18です。ご連絡はTwitter:@sawa_camelliaへ。

「この世」の最後

目の前の夥しい数の顔面にゾッとする。
どれもあまりにも綺麗なのだ。
顔面をタップして目の前を見れば,タップした顔が目の前にある。
正確には,「私の顔がそうなっている」と言うべきか。

「これにします」

何度目か分からない作業のあと,私は目の前のお役人様にそう告げた。
この個室に通されてどのくらい経っただろう。
あれから,数え切れないほどの作業を終わらせてきた。

「かしこまりました,…これで作業は終了です。では」

これでこの世とはお別れです。

どうやら,「あの世」での顔を選ぶことが私の生涯最後の作業となったらしい。

「既にこの先の役人には待機を命じてあります」
す,と手を伸ばされた先には,ただの外の景色が広がっている。
「あの世」とは程遠い,穏やかな景色だった。

 

 

こんなことになったのは,ほんの数時間前に遡る。

「お役人様」に連れてこられたのは,私の想像とは全く違う,ただの個室だった。

「ご希望であれば,もっと辛い処刑方法もありますよ」
物好きそうに笑った目の前のお役人様に,私は興味を抑えきれない。

「この世で死んで,あの世で生きるんです」
「…とても興味深いですが,そんな非現実的なことが可能だということが理解できません」
「あなたがこれまでしてきたことと比べれば,理解するにはずっと容易いと思いますけれどね」
あなたがこの中にいる間に,驚くほど技術は進歩したということですよ,と笑われる。
そうだ,それほど,私はもう「この中」で長い年月を過ごした。
家族は元気に過ごしているだろうか。
傷つけた人々はどうしているだろうか。
その周囲の人は幸せになっているのだろうか。
思えば随分「この中」で,人の心を取り戻したものだ。

「ということで,どうします」
僅かな感傷に浸っている間もなく,死ぬことに変わりはないですけれどね,と,追い打ちがかけられる。

「ありがとうございます,あの世で生きます」
「その言葉に,二言はございませんね」
「ありません」

 

 

 

「■ってらっしゃいませ。■■■」

それが,私がこの世で聞いた,最後の言葉になった。